フィールドレコーディングの魅力 ― 風や波が教えてくれる“音の時間”


こんにちは、poco moonです。今日のテーマは「フィールドレコーディングの魅力」。私の楽曲の中には、波のさざめきや鳥のさえずり、風が木々を抜ける音など、“環境音”がそっと混ざっています。アンビエントやエレクトロニカを制作する中で、こうした音は「メロディやリズム」と同じくらい大切な要素になっています。

制作スタジオの静けさでは捉えきれない「場の空気」や「時間の経過」――私はそれらを音楽へ閉じ込めたいと思っています。旅先でマイクを向けたとき、録音機のLEDが光るたびに、耳の奥で何かが目を覚ます感覚があります。

今日は、私がフィールドレコーディングを通じて感じてきたことと、実践のヒントをお届けします。


どんな音を録るのが好きか

旅先では、ぐっと耳を澄ませたくなる瞬間があります。岩に波が当たる音、風が森を抜ける音、川が穏やかに流れる音──。そんな“風景の中の音”を見つけたとき、録音機をそっと取り出します。

海辺でマイクを構えたとき、砂上を歩く足音や遠くのカモメの鳴き声まで聴こえてくることがあります。そのたびに“この音がどう曲に化けるか?”という想像がふくらみます。

録音という行為は、ただ音を記録することではなく、「その場所の時間と空気を切り取る」旅のようなものです。

実践ポイント:

  • 自宅から30分以内の自然スポットを1つ見つけ、スマホや録音機を持って出かける。

  • 音が穏やかな朝や夕暮れに録音を試す。人の声や雑音が少ない環境は“クリアな空気感”を得やすい。

  • 録った音をタイトル/日付付きでフォルダ管理する。「どこで何を録ったか」が作品制作時のアイデア源になる。


フィールドレコーディングの工夫

録音には、私は ZOOM H4n と H1n の2種類を使っています。以前はH4nでしっかり録ることが多かったですが、最近は一眼レフで写真も撮るため「機材を軽くしたい」という思いからH1nを使うことが増えました。

いちばん難しいのは「人の声が入らない環境を見つける」ことです。人通りの少ない時間帯や場所を探し、静けさが訪れた瞬間を待ってマイクをセットします。5〜10分ほど録っても、風の向きが変わったり、車の音が入ったりして理想の音にならないことも多々あります。それでも、うまくいった録音には「その場所の空気」がまるごと写っているようで嬉しくなります。

実践ポイント:

  • 録音前に「3分間、静かに耳を澄ます」習慣をつける。マイクを入れる前に心を“その場”に合わせるため。

  • 機材は“風防(ウィンドスクリーン)付き”がおすすめ。風が入ると低音がノイズ化しやすい。

  • 録音後すぐに音をチェック。不要なノイズが多ければ、別の日に再チャレンジ。ベストな“場”を探すことも制作の一部です。


加工の仕方と仕上げ

録った環境音は、DAW(例:Logic Pro)に取り込んだあと、軽く整えます。基本的には「低音カット」と「ノイズのリダクション」を行い、自然音が持つ“生きた感”を失わないように努めています。

ただし注意すべきは、加工しすぎると“素材”ではなく“効果音”になってしまうことです。私の場合、環境音は主張しすぎず、曲の背景にゆるやかに溶け込ませることを意識します。シンセやピアノがメロディを奏でているその裏で、録った音が“空気の呼吸”として流れている。そんな構成が好きです。

実践ポイント:

  • 録音データを一旦「−6 dB」あたりで正規化し、ピークを避ける。

  • 低域(例:120 Hz以下)をハイパスフィルターでカット。風のノイズやマイクハンドリングの振動を除去。

  • 録音素材を“ステレオ”配置し、左右の奥行きを活かして配置。片側だけに配置すると違和感が生まれやすいです。


楽曲での使い方

たとえば、私の楽曲「Beautiful Coast」では、伊豆の浮島海岸で収録した波の音を使用しました。夕方の時間帯、人の往来も少なく、柔らかな潮騒のリズムがヒーリングサウンドとよく馴染みました。

一方、「Precious Time」では、ガットギターの音に風や鳥の声を加えています。こちらは人が多い公園で録音したため、遠くに人の話し声がかすかに入っています。でもその“にぎやかさ”が不思議と曲の温かさを引き立ててくれて、結果的にちょうどいい“生活の音”になりました。

環境音を曲に加えると、音楽がぐっと“生活”に近づきます。まるで、日常が音に寄り添いながら流れているような印象。人工的なサウンドと生きた空気のあいだで、聴き手は「そこにいるような」錯覚を覚えることがあります。

実践ポイント:

  • 録音した音をループ処理しすぎないよう注意。余白がある方が“呼吸”を感じさせやすい。

  • 録音素材をメロディのキックオフに合わせてフェードインさせると、“場”が立ち上がる感が出る。

  • 本来の楽器構成(ドラム・ベース・シンセ)に加えて、環境音のトラックだけを「−12 dB」あたりでサブ的に配置するとバランスが良い。


自然と音楽のあいだで

環境音を加えると、音楽がただの“音源集”ではなく、“時間の断片”になります。風景が音になり、空気の振動が音楽の層になります。私にとってフィールドレコーディングは、素材集めではなく「風景と心をつなぐ小さな旅」です。

これからも耳を澄ませながら、音の中にある景色を探していきたいと思っています。録音した瞬間が“作品の起点”になることも多く、旅先で出会った静けさや風の余韻を思い出すだけで、次の曲の構想が浮かぶこともあります。

今日も、自分の耳をひらいて、音を紡いでいきましょう。

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